

デザインとは、相手の願いを形にすること。ディレクターの仕事は相手の話をとことん聞き、一緒に考えるところから始まる。
プラスディーでは、“人や企業の営みのすべてが、デザインの対象であり得る”という考えから、2021年9月より、社員全員が「X Designer」として自身の肩書を定義した。対象には、ディレクターやエンジニアなどのクリエイティブ職はもちろん、広報や経理などのバックオフィス職も含まれる。全員がデザイナーを名乗ることで、社内外にどんな変化が生まれるのか当事者である社員へのインタビューから明らかにしていく。
今回インタビューするのは、ディレクターの八窪豊文。相手の願いを形にしていくことが自分にとってのデザインだと話す彼に「Project Designer」を名乗る理由を聞いた。
- 八窪 豊文:チーフディレクター「Project Designer」
京都のWebコンサルティング会社でデザイン/コーディングを経験。東京に場所を移し、広告プロモーション領域を担うWeb制作会社にて、PMとして企画制作/進行管理を経験。代理店からの間接的な関係ではなく、直接的に依頼主のサービス/プロダクトに向き合うクリエイティブに深く関わりたく、2017年プラスディーに入社。地域に根差した事業を形にするべく、Webのみならずロゴやコピーライティング、撮影ディレクションなどブランディングに関わる領域を手掛ける。ストレングスファインダーは上から内省、最上志向、着想。
同じ未来を目指しているパートナーとして仕事をする
――プラスディーで担当した仕事で記憶に残っているプロジェクトは?
「古民家でつづく営みをつくる。」をメッセージに掲げた『株式会社つぎと』のコーポレートサイトです。つぎとはその土地の暮らしや歴史を象徴する「古民家」を軸に、失われつつある豊かな営みを次世代に継ぎ、多様な地域社会を未来へと繋げる活動をされています。代表取締役を務める小田切さんとプラスディーのつながりも深く、様々な地域のプロジェクトで何度もお仕事をご一緒させていただきました。
ご依頼いただいたのは、『株式会社つぎと』設立にあたってのロゴ制作とコーポレートサイト制作。2021年7月に始まったばかりの会社だからこそ、根源にある想いやサービス設計、日本を資源とした今後10年を見据える戦略も含めたディレクションが必要だと考えました。
――どんな進め方をされていたんですか?
経営陣9名が集う、会社のこれからを考える合宿にデザインパートナーとして参加させていただきました。ロゴとWebサイトをつくるにあたり、まずはみなさんの想いを聞く必要があるなと思い、「ご一緒してもいいですか?」と私たちから声をかけました。合宿では、つぎとさんが目指すビジョンや提供価値などを話し合う場に立ち会い、飛び交うたくさんの意見をひとつひとつ紐解いていきました。直にふれた先方の想いや言葉の選び方は、最終的なアウトプットであるロゴやWebサイトを形にするうえでも、重要なヒントになりました。
課題や疑問を共有した結果、クライアントと「受発注者の関係性」ではなく、同じ未来を目指しているパートナーとして仕事ができたのではないかと思います。
現在も、つぎとが進めている様々な地域のWebサイトに関わるブランディングに携わっています。どのプロジェクトも、「本当に地域の未来のためになるのか?」を考えながら、貢献できることの種類や方法を模索している最中です。Webサイトをきっかけに、土地への関わり方や仕事を通して信頼され、人の縁がつながるのを間近で感じられることが本当に嬉しいです。
相手の願いを形にしていくことが、デザインだと思う
――八窪さんにとってのデザインとは?
一言で言うなら、「願いを形にすること」だと思います。
いま自分がしているのは、誰かが頭の中で思い描いている漠然とした理想を、現実世界で形にするお手伝いです。誰かが悩んでいるのであれば、会いに行き、話を聴いて、どんな方法で形にするのがベストなのかを一緒に考えます。
しかし、形にしているだけなので、その時点で願いが叶っているわけではありません。あくまでそこからがスタートです。アウトプットの方法として、Webサイトを軸にデザインをすることが多いですが、それもたくさんある手段のひとつ。本質的には、「目の前の人の願いを形にできているか?」を常に問いながら動くよう心がけています。
――そのモチベーションはどこから生まれますか?
純粋に、自分が働きかけたことで、相手に喜んでもらえることが嬉しいからかもしれません。
僕は美術大学に通っていたのですが、周りが熱狂的にものづくりに邁進する中で、自分は同じ熱量をもってつくることに向き合えないと早々に諦めてしまいました。そこで彼らをライバルと捉えるのではなく、「彼らのために何か自分ができることはないか?」と考えることにしたんです。
学内の芸術祭というイベントで、彼らの制作物を商品として販売するセレクトショップをプロデュースしました。これがとても好評で「こんなこと、自分一人じゃできなかったよ」と、商品が売れていく様子を見ながら嬉しそうに言われたことを今でも覚えています。
その原体験が、誰かの願いを叶えたい今の考え方につながっているのかもしれません。
自分自身がつくることで一番になりたいわけではなく、熱狂的につくる人に関わっていたいんです。
名前をつけることが、解決への糸口になる
――「Project Designer」と自分を定義したのはなぜ?
後回しにして滞っている課題や悩みに「〇〇プロジェクト」と名前をつけると、内容が明確になって物事が進めやすくなる経験ってありませんか?たとえば「大掃除プロジェクト」とか、仕事に直接関係のない事柄でも。
何かひとつの具体的なアウトプットの形に縛られるのではなく、抽象的な物事をひとつの単位として捉えて形にしたいという意味を込めて、「Project Designer」と名づけました。
その中でも、自分はプロジェクトを『考える』『つくる』『動かす』の3フェーズに分けて考えています。
誰かの想いにふれて心を動かされた瞬間に、『考える』フェーズは始まります。自然と頭に浮かんでくる、どうしたらもっとよくなるか?喜んでもらえるか?という考えにプロジェクトと名前をつけるんですね。その考えを、現実世界で確かめることが『つくる』フェーズです。ここで、目的、期限、予算を具体的に定義します。最終的に、プロジェクトを『動かす』ために必要なメンバーを集めてチームをつくり、現実的なアウトプットやゴールを目指していきます。
自分が考えたものを頭の中だけで終わらせたくなくて、このような思考錯誤の過程で実験を繰り返していますが、おそらくこれからも変わってゆくと思います。
――3つのフェーズを進めていくうえで「Project Designer」として気を付けていることは?
バランスがとても難しいです。『考える』『つくる』は未来の時間軸を、『動かす』は今の時間軸をもとに進んでいくと考えています。新しい仕事を得るために必要なきっかけは依頼者の悩みや課題を明らかにすることであり、そこにどんな解決策があるのかを一緒に考えることで、新しい仕事が生まれます。
課題解決を遂行していく『動かす』フェーズでは、舵はとりつつも基本的には信頼できるメンバーを巻き込んで任せることが多いです。先ほどの美術大学の話ではないですが、デザイナーやエンジニアなど、想いを形にするメンバーがのびのびと熱狂的につくる様を見たいと考えているからかもしれません。
『動かす』フェーズが終われば、またチームで別のプロジェクトができるように『考える』『つくる』フェーズに移ります。ここでの『つくる』は、チームのメンバーがものづくりに邁進できる機会と環境も含みます。
会話を重ねることが、いつの間にか信頼につながる
――仕事をするうえで一番大切にしていることは?
依頼者がしてくれた話に必ず応えることです。場合によっては希望に沿えないこともありますが、まずは考える。それでも難しい場合は過程も含めて理由をお伝えしますが、無理だと思わずに、まずは一度考えることを心がけています。
仕事をしていると、世の中をよりよくしようと想い描く人に心から惹かれている自分に気づきます。せっかく惹かれたのなら、自分の強みである「空想を現実にするPM力(段取り力)」を起点にして依頼者の願いや想いを出来るかぎり形にして社会還元していきたい。
ですが、予算や時間などの制約に頭を捻る毎日でもあり、自分が感動させてもらったお礼と捉えると、まだまだ返せていないなといつも思います。
だからこそ、相手の口調や心情を観察して注意深く読みとり、会話を重ねることを大切にしています。信じて/信じられて、頼って/頼られて、そのやり取りを何往復できるのか、どれくらいの深さで行えるかによって、お互いをパートナーと認められる関係性の濃度が変わってくると考えています。
――どんな人と一緒に仕事をしていきたいと思いますか?
仕事によってチームのつくり方は違いますが、本気になれる人と働きたいです。先ほど話した地方創生のプロジェクトにも紐づきますが、Webサイトをつくるときはその土地で仕事をされている方にお会いし、話を聴きに行くことから始まります。
本人の心意気やストーリーを聴いていると、いつの間にか鳥肌が立つんです。人生をかけてお店を出すことや、先も見えない中で宿を運営しようと試みている人を目の当たりにすると、ただ見た目がいいだけのサイトなんて、とてもじゃないですがつくれません。
Webサイトだけじゃなく、地方の仕事すべてにおいて言えることですが、その土地に住む方々のこれからの暮らしや未来のことを考えることが何より大事。地元の方々の想いを背負う覚悟がある人と一緒に働きたいです。
――「Project Designer」として今後していきたいことは?
自ら事業を起こすことの重さや、サービスをつくることへの理解度をより高めていきたいです。
たとえば、自分は宿泊施設のWebサイトはつくれるものの、宿泊施設を自分で立ち上げて運用したことはありません。だからこそ、人が人生をかけてしている仕事への理解を深めることが何より大切です。
今回であれば、宿泊施設に自分が泊まったうえでユーザー視点でのWebの役割に思いを巡らしてみました。宿泊者をどんな気持ちにさせたいのか?どんなことをしたら喜ぶのかを想像しながらプロジェクトをつくってみる。どんなサイクルで事業が成り立ち、どんな人がどんな想いで集ってくるのかを自分なりに考え、仕事の成り立ちへ踏み込んでいくことで同じ景色が見えてくるのではないかと思っています。
これは、「Project Designer」として、一生をかけて追求し続けるべきポイントだと考えています。
Webサイトをつくることが「オーダーメイドの家をつくること」だとするのならば、相手を知ったうえで、その人のためのWebサイトをつくりたいです。それと同時に自分本位になっていないか?という自問自答も忘れずにいたいと思います。
トレンドや流行りを追ったものではなく、一生住みたいと思われる家や「あなたのおかげで人生が変わった」と言われるような価値を提供する仕事ができたらなと思っています。
写真:西田優太