インタビュー

受託か、インハウスか。双方を経験したクリエイティブディレクターが出した結論。

2021.7.30

# クリエイティブディレクター# 価値観# キャリア

2021.7.30

クリエイティブに関わる人間の多くが一度は抱く、「インハウスのほうが自分には合うのでは?」「受託のほうが自分には合うのでは?」という迷い。特に一方でしか働いた経験がない人は、隣の芝が青く見えてしまうものだ。
そこで、双方の環境を経験したことのあるクリエイティブディレクター・山木に、どんなことを期待して転職し、それぞれの職場で何を感じたのかを聞いてみた。

受託かインハウスかよりも、もっと大事な軸がある

最初に結論を書いておくと、この記事では「受託か、インハウスか」に対する答えは示さない。山木は「仕事に何を求めるかによるけれど、僕にはどちらでも変わりませんでした。もっと大事な軸があることに気付いたんです」と話す。

山木の経歴を紹介する。およそ20年前、最初に就いた職業は美容師だった。集客施策に携わるうちにインターネットの世界に関心を持ち、独学でWebデザイナーに。Web制作会社1社を経て、2010年に一度プラスディーに入社している。その後、2017年に多くのラグジュアリーブランドをクライアントに抱える外資メディア企業のデジタル部門に転職。さらに2019年には、後にマザーズ上場を果たした家電スタートアップに移り、社長直轄のクリエイティブ部隊に所属した。昨年2020年にプラスディーに復職して以降は、クライアントワークのクリエイティブ・ディレクターと、自社ブランド「UNBUNDLE」の事業責任者を兼任している。

受託とインハウスを渡り歩き、今も社内外の仕事を兼務している。そんな彼なら、双方のメリットとデメリットとを語る資格はあるだろう。

“いい仕事”をするために必要のない、忖度や政治に嫌気が差した

プラスディーからメディア企業に移った際は、インハウスのことは頭になく、クライアントワークを突き詰めようという気持ちが強かった。最初に務めたWeb制作会社では、中小企業を主に担当していた。プラスディーではナショナルクライアントの仕事が増えた。さらにその中でも、クリエイティブに投資を惜しまないクライアントの仕事がしたいと数社の戸を叩き、縁があったのがメディア企業だった。

制作物の掲載先が自社メディアになる点は制作会社と大きく異なるものの、広告主がいて、彼らの価値を高めるためのコンテンツをつくるという意味では、メディアもまた受託企業だと言える。願った通り、自動車ブランドを中心に各カテゴリーのトップクラスの知名度と規模を持つ企業だけを担当できた。学びもあった。

「会社全体としてコンテンツを一番大事にする考え方が浸透していて、それにはすごく影響を受けました。コンテンツというのは文字や写真、映像のことで、Webやエディトリアルのデザインも、それらを活かすためにあると事あるごとに言われました。それまでは、とにかくかっこいいものをつくりたいと思っていたんですが、それってクライアントやユーザーが求めてることじゃないよなと気付いて。この考え方は今でも大切にしています」

しかし、希望が叶い、成長も実感できたにも関わらず、山木は再度転職することになる。きっかけはプロジェクト関係者が“いい仕事”をすることに純粋に向き合っていないことへの憤りだった。クライアントの規模が大きいゆえに、広告代理店が間に挟まることもあった。伝言ゲームになることで、クライアントの真意が届きづらい。担当者によっては、忖度によって故意に言葉をねじまげる。クライアントと代理店の関係性に疑問を持つこともあった。プロジェクトそのものとは関係ない、社内の力関係によって情報支給が遅れたり、不要なはずの修正を要望されたりする。

「既に10年以上クライアントワークをしていましたが、かつてない程にクライアント内の政治が影響してるなという場面に出くわしたんです。いいプロジェクトにしようという情熱から来る要望なら、対応するしないは別として、真剣に向き合います。でも、そうじゃない感情の渦巻きを感じて、ガッカリしました。コンシューマーの共感を目的とするなら、事業会社に入って中から動かすほうがいいと思って、インハウスの仕事を探したんです」

不満のない環境。それでも、クライアントワークに戻る

そうして見つけたのが、家電スタートアップのグラフィックデザイナーの求人。デジタル畑の山木にとっては、大きなキャリアチェンジになるが、関心のある企業であることを重視した。

「インハウスってことは、その会社の仕事しかできないので、事業領域や製品に興味を持てるかどうかは大事にしました。家電は生活のなかで必ず使うものだし、特に入社した会社のプロダクトはその中でもエッジが効いていたんです。マーケティングの戦略もおもしろかったのでぜひ関わりたいと思って、1から勉強し直す覚悟で応募しました」

社長面接を経て入社。実際には、Webディレクターとしてオファーを頂き、そちらにシフトした。社長直轄のクリエイティブ部で、デジタル周りの取り組みを中心に、さまざまなプロジェクトを担当した。社長と直に話せる関係性。プロダクトの開発チームとコミュニケーションチームも距離が近かった。新製品のWebサイトをつくったりプロモーションしたりする際も、開発開始から完成のストーリーをすべて知った上で行うため、ブレることがない。“いい仕事をする”という観点ではこの上ない環境だった。しかし山木は、転職を決意する。

「すごく勉強をさせていただいたし、ありがたいことに強く引き止めてもいただいたんですが、自分が目指すキャリアは、その会社にいたら達成できないなと思ってしまって。社長がとにかくすごい人で、間近で見てるうちに、下で働くんじゃなくて、自分も自分のビジネスをしたくなったんです。でも僕はもう40歳手前。入ったばかりの家電の世界で、独立できるほどのノウハウを身につける時間はないと判断しました。じゃあ何ならできるんだと考えたとき、デジタルのクライアントワークしかないなと」

独立を視野において働くことができ、かつ優良なクライアントと接点を持てる場所。そんな難しい条件が叶ったのが、古巣であるプラスディーだった。(過去在籍時の貢献と関係性があった山木だからこその特別待遇で、すべての人をこの条件で受け入れるわけではない)

受託でも、インハウスでも、クリエイターとして仕事を全うできる

冒頭の山木の言葉に戻る。インハウスか受託よりも、もっと大事な軸とは何だったのか?

「"いい仕事”をすることに対して、純粋でいられる環境かどうかです。もっと言うと、その環境というのは、周囲の人のことです。同僚、クライアント、代理店、その他の人たちが、みんな“いい仕事”をしようという情熱があるかどうか。僕が所属した家電メーカーは情熱のある人が多かったけれど、同じ事業会社でもメディア企業にいた頃のクライアントのように、社内政治ばかりを気にする会社もあります。代理店も、クライアントの肩を持つだけの人もいれば、いいものをつくるために中立的な意見が言える人もいます。受託会社のクリエイターがみんな情熱に溢れているかというと、そうとも限らない。だから受託かインハウスかだけじゃ、どちらがいいとも言えません。少なくとも僕にとっては」

もちろん、これは山木の判断軸であって、別の軸を持つ人にとっては、受託かインハウスかは重要な判断基準になることもあるだろう。例えば、時期によって仕事量の変動が大きいのは耐えられないという人は、繁忙期がない業種のインハウスがいいだろう。受託会社は会社の受注状況に応じて個人の業務量も変動しやすいからだ。あるいは、特定の言語を極めたいエンジニアは、その言語を使ったサービスを運営する事業会社のインハウスエンジニアになるのが良い。仕事に求める軸によって、「受託かインハウスか」の回答は変わる。

ただ、アナタの軸がクリエイターとしての仕事を全うすること、つまり"課題を解決する”ことに情熱を注ぎたいのであれば、受託かインハウスかよりも、大事にすべき観点がありそうだ。

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