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ライフスタイルブランドUNBUNDLEが生まれるまで。【ビジュアルブランディング編】

2021.10.29

プラスディーは、2021年6月1日、「デザインの領土を開拓する」をコンセプトに、ライフスタイルブランド「UNBUNDLE(アンバンドル)」を立ち上げた。第一弾商品は、史上初のノンアルコールのシャンディガフ「Alternative Shandy Gaff(オルタナティブ シャンディガフ)」。

はじめての自社プロダクトづくり。世界観やキービジュアル、パッケージデザイン、飲料の製造はどのようなプロセスで行われたのか?
アートディレクション、撮影、ベンダーディレクション、マーケティングに携わった、【右から順に】加藤(アートディレクション)、藤田(フォトクリエイション)、石井(プロジェクトマネジメント)、磯前(コミュニケーションデザイン)の4人に語ってもらった。

ブランド名『UNBUNDLE(一つの価値観に束ねられない)』から広がる、多様な価値を混ぜ合わせた世界観

ブランド名『UNBUNDLE』は、BUNDLE(束ねる)にUN(“not”を意味する接頭辞)を合わせた言葉で、一つの価値観に束ねられない、今よりももっと多様性が認められる未来を思い描きながら名付けられた。
第一弾商品であるAlternative Shandy Gaff も、新しい価値観に寄り添うことを目指している。その価値観とは、欧米のミレニアル世代の若者を中心に、Sober Curious(ソバーキュリアス)と呼ばれる、「あえてアルコールを飲まない」ライフスタイル。アルコールではない。ジュースのように甘くもない。でも、水のように無個性でもない。イメージしたのは、ディナーのペアリングドリンクよりも、休日のリラックスした時間に寄り添うパートナー。
「そうした背景を踏まえて、UNBUNDLEらしさとは何か、“一つの価値観に束ねられない”とはどんな状態なのか、まず世界観のイメージを膨らませました」
そう話すのは、各種ビジュアルのアートディレクションを担当した加藤。彼が世界観の柱の1つにしたのが「一つの言葉で言い表せない状態」だ。

「写真にしても、言葉にしても、境界線をあえて設けず、常に振り幅を持たせることを意識しています。シンプルかつ複雑、新しくも古い、硬くもあり柔らかくもある、男性的かつ女性的……。縛られず、束ねられない、そんな感覚です」

キービジュアルのイメージソースは、休日の午後3時ごろ、部屋に差し込む木漏れ日

そんな世界観を具体化しようとつくられたのが、キービジュアルに使用した、グラスにシャンディガフを注ぐ写真。フォトグラファーは、デザイナーでもある藤田が担当した。

加藤から共有されたのは「リラックスした一人の時間に寄り添うものの象徴として、休日の午後3時ごろの木漏れ日」というイメージ。でき上がったのは、次のカット。赤みがかった色彩と色濃く落ちた影は、日が傾きはじめた曖昧な時間帯を思い起こさせる。

当初、藤田はこの色調に仕上げる事に対し抵抗を感じていた。大手飲料メーカーのプロジェクトでの撮影も経験した彼には、飲料を撮る際の常識が染み付いていたからだ。商品にフォーカスを当てる。食品を添えてシズル感を足す。色は過剰に補正しない。補正する場合も、飲料の色を際立たせることを優先する。Alternative Shandy Gaff のキービジュアルは、そんな常識を無視したものだった。
「“飲料そのものの味を想起させ、美味しそうに見せることが最優先”という固定概念があったんです。今回の撮影で、世界観を表現することにプライオリティーを置いてみて、こういう切り口もあるんだなと視野が広がりました」

藤田がそう話すように、仕上がったビジュアルは味を伝えるというよりもニュアンス表現に偏っている。このような表現を選んだのは、ノンアルコールのシャンディガフというカテゴリ自体が、多くの人が飲み慣れない、味の想像が付きにくいジャンルだからだ。ビールやジュースに比べ「美味しそう、飲んでみたい」とはなりづらい。市販品と比べれば価格も高いだけに、なおさらハードルが高い。だからこそ、加藤は世界観を表現することに重きを置いた。
「“手に取ってよく見てみたい”とか“部屋に置きたい”とか、もっと言えば“(商品以外も含めた)世界観が好き”と思ってもらう必要があると考えました。感性に訴えかけることに振り切ろうと決めて、みんなを説得しました」

世界観を実現するために、ロット数やコストも妥協しない

アートディレクションの裏側で、生産業務も進む。飲料OEMメーカーをリストアップし、商談を重ねて、ベンダー選定を行った。
手探りの状態かつ、実験的な生産から販売を実現しうるベンダーはどこか? 選定時に特に重要視した指標は、ロット数とコスト。在庫とコストリスクを最小限に抑えたいと考えたため、小さなロットから対応できることはマストだった。一方で、ロットが小さくなることで製造単価も跳ね上がることも避けたかった。UNBUNDLEが目指すのは手の届かない高級ブランドではなく、日常をほんの少し豊かにする中価格帯ブランドだからだ。
加えて、販売実績がまだ全くない新規ブランドで信用も弱いUNBUNDLE。ベンダー選定は難航した。

「100社ほど当たりましたが、半分以上の会社から門前払いされてしまいました。見積もりをくれた50社も、こちらの希望よりはるかに多いロットからしか対応できない会社がほとんどで、現実的な商談ができたのは10社ほどでした」

石井はそう苦笑する。そんな中、最終的に契約させていただいたのは、株式会社友桝飲料さん。佐賀県に本社を構える飲料メーカーで、無印良品など豊富な飲料OEM実績を持つ、頼れるパートナーだ。

届けたい人に届けるために、実店舗での販売を模索する

Alternative Shandy Gaffは、現在自社ECサイトでのみ販売を行っているが、実店舗に卸して販売してもらえるよう商談を進めている。交渉を担当するのはコミュニケーションデザイナーの磯前。

「お声がけしているのは、飲食店やライフスタイルホテル、セレクトショップなどです。基準は、届けたい人たちが訪れる場所かどうかです。こだわりと個性のある店舗に置いていただきたいと考えています」

数をさばくなら、チェーン展開する企業と交渉するほうが効率的だが、それではブランドの世界観が崩れてしまう。ブランドを守りながら販路を増やすには、地道に泥臭く、1軒1軒を口説くしかない。交渉方法にも飛び道具はない。商品の実物を送り、飲んでいただく。そのうえで、可能な限り顔を合わせて感触を聞く。

「口に入れるものなだけに、センシティブな部分もあります。文面だけでは、どれだけ上手に説明してあったとしても、簡単には信用できません。少なくとも、私だったら信用しません。だからこそ、できるだけ顔を合わせて温度感をキャッチアップすることが重要だと思っています。飲食やセレクトショップなど、お客さんとフィジカルに対峙している方々と話していると、圧倒的なカスタマー目線を持っているなと感じます。価格帯やラインアップに関する具体的なご意見もいただけたりします。私たちも、卸先の方々のカスタマーに対する姿勢から学べることがたくさんあるのではと思っています」

現状、お声がけしているのは、オーガニック志向のレストランや、SDGsにパワーを割いているホテルなど。とはいえ、絞り込みすぎず、トライ&エラーを重ねながら、販路開拓を図っていくという。

多様な人々へUNBUNDLEの思想を発信し、共感してくれる人へ届け続けたい

UNBUNDLEの世界観をより強固にするために、加藤が次にトライしたいと考えているのは社外とのコラボレーション。
「社内の人間だけで考えて出しているものを多様な価値観といっていいのかというところはずっと気になっています。自分たちとは違う視点を持つ人、例えばアルコールのプロフェッショナルや、反対に長年ノンアルをつくり続けている人など、何かのプロをチームに巻き込めたら、もっとおもしろいことができるし、取り組みの説得力が増すと思うんです」

長引くコロナ禍は、アルコール文化にも大きな影響を与えている。「無理して人に合わせなくていい」という風潮のなか、飲酒量や頻度が大きく減った人。巣ごもりで手持ち無沙汰になり、飲酒量が増えた人。何より影響を受けているのは、酒類提供に制限を受けている飲食店だ。
こうした時代背景のなか、オルタナティブ ・アルコールという飲み物は、社会にどんな価値を提供できるだろうか?

「飲食業界がお酒が提供できないなかで、ノンアルコール飲料を使ってできることが何かあるのではないかと色んな人に相談しています。Alternative Shandy Gaff単体では難しいなら、他の飲料と協力してもいいですし」
石井がそうアイデアを巡らせると、磯前が続ける。

「社会に対して問題提起や新しい価値観の提示は、最初は良い反応をもらいやすい。一方で、中途半端にやることは大きなレピュテーションリスクを伴う。本当に、その提起や価値観が正しいと思っていれば、浸透するまでやりきらなければならないと思っています。」

最後に、Alternative Shandy Gaffに続く第二弾のプロダクトとして、どんなものを検討しているか聞いてみた。

「今すでに世にあるものだけれど使い方を新しくするとか、違った視点を提示するものをつくりたい」
という藤田の回答に、加藤が付け加える。
「自分たちに熱量がないと地に足着いた物づくりはできないと思っています。ECサイトのメッセージ文の最後の一節に『遊ぶように生きる、今を創る全ての人に。』と書いていますしね。この言葉どおり、本来あるべき姿を提案すること、UNBUNDLEにしかできないことをやっていきたいです。それが存在意義だと思うので」
走りはじめたばかりのブランド、UNBUNDLE。共感してくれる人に届けるために、試行錯誤の日々は続く。

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