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成果はコントロールできない。企業がオウンドメディアを始める前に確認すべきこと

2022.12.20

企業や教育機関などの活動情報を自らの手で発信していきたい――
2010年代にブログから端を発したオウンドメディア。SNSが隆盛の時代で、独自ドメインで運営するメリットとは何か。持つべき指標やリソースのマネジメントについて、プラスディーのパートナーでもある大阪のコンサルティングスタジオ「ARUTEGA」代表の平尾 誠 氏とディスカッションを行った。
プラスディーからは2023年に新設する関西オフィスの立ち上げメンバー、粂、西田、奥村の3人。
“オワコン”とも言われる中、企業課題としての相談の多い「オウンドメディア」について紐解いていく。

Profile
ARUTEGA 代表 平尾 誠

ARCHETYP Inc, LIG inc Phillipine での開発経て、I-ne IncでWeb Producerを担当。主にコーポレートブランディングやブランドサイト制作を担当。2019年ARUTEGA設立。CIの策定からデザイン・開発までを牽引。

メディアの役割を定める

奥村:ARUTEGAさんとは横浜のユニフォーム制作会社「DAIICHI」のWebサイトリニューアルの際にパートナーとしてご協力いただきました。このプロジェクトのように、企業サイトに更新型コンテンツを内包する形式はスタンダードになっていると思いますが、そもそも企業がオウンドメディアをやるべきメリットは何だとお考えですか?

平尾:広報活動において、異なる目的の記事を統合的に発信できるのがオウンドメディアの大きなメリットだと思ってます。
社員インタビューであれば、採用活動に直結しますし、プロダクトを赤裸々に語ったものであれば、企業に対する好感度を上げることに一役担うことになるかと思います。

西田:最近だと最初のタッチポイントがSNSということも多いと思いますが、役割としては「より深く知る」というところでしょうか?

平尾:そうですね。もちろん、「会社ブログだけで頑張る!」という企業さんはほとんどいないので、タイムラインで流れてしまうSNSと長期的にストックしていけるオウンドメディアで役割を分けることができると考えてます。

粂:確かにそれはありますね。それに、SNSでは身近に感じてもらい、オウンドでは真摯な企業姿勢を打ち出すなど、コミュニケーションのトーンを変えるということもありますよね。
一方でnoteのようなブログサービスもありますが、このあたりの棲み分けは難しいですよね。

平尾:noteは拡散用として使用している場合がありますね。SNSとオウンドメディアの間のような立ち位置かもしれません。私の感覚だと、クリエイティブ業界の方がよく使っているサービスという印象です。有料化コンテンツなどがないのであれば、企業で運用するべきかはよく検討するべきだと思います。

ARUTEGA 平尾 誠 氏

求めがちな指標

西田:もうひとつ伺いたいのは、成果指標の置き方です。やはり「メディア」と名のつくものなので、KPIとしてPVやUUを設定するべきかご相談をいただくことがあります。リニューアル以前と比べてPV数を何%アップさせることを目指すのかなど、悩まれている担当者さんも多いですよね。

平尾:既にメディアを立ち上げていて、アナリティクスツールで分析できているなら、課題解決を目的にした記事を増やすことが第一だと思います。例えば、「記事が読まれない」という課題であれば、SEOとして、着実にスモールキーワードの順位を上げていくことがいいと思っています。

西田:確かに、ビッグキーワードで一時的にPVが上がっても、それが見込み客ではなく、コンバージョンしなかったみたいな話はよくありますね。

平尾:そういうケースはたくさんあります。
例えば冒頭に仰っていた、横浜にあるユニフォーム制作会社さんの場合ですと、『横浜 ユニフォーム』で認知させたい。
でも横浜マリノスのサッカーユニフォームを調べている方が閲覧してしまっていることが実際にありました。
何も考えないで記事を書いていると、潜在顧客でない人に見られていて、PVが上がるだけで、効果測定しにくいサイトになってたりします。

新規でオウンドメディアを立ち上げる場合はさらに悩ましいですね。こちらは、具体的なマイルストーンを置きづらいので、認知(UU、PV)や売上(CVR)などの漠然とした目標を定めてしまいがちです。しかし、コントロールできないことを短期的に求めるべきではないと思うんです。

奥村:コントロールできないというのは?

平尾:サイトに訪問したり、そこで何かを購入したりするのはユーザーです。自分たちがどれだけ頑張って記事を書いても、ユーザーが思った通りに動いてくれるとは限りません。認知や売上は、自分たちで完璧にコントロールできないんです。これらを指標にしてしまうと、どのように目標に近づいていけばいいか分からないため、長続きしません。
ですから、少なくとも立ち上げ開始から半年間は、コントロールが可能なことを指標にするべきだと思います。例えば、「1ヶ月に記事を4つ書く」とか「社員ひとりが1ヶ月に最低1本は書く」などです。
オウンドメディア運営は、長期的なマーケティング活動なので、運用体制の確保を優先し、運用していく中でアナリティクスを見ながら編集方針が固まっていきます。そこからようやく、新規UU数や回遊率などのKPIを設定できるんじゃないでしょうか。

西田:そこは私たちも重要視している部分で、クライアント社内の体制や運用方針はできるだけ先に整えてもらえるように働きかけています。

PLUS-D ディレクター 西田

モチベーションとクオリティーのコントロール

平尾:オウンドメディア運営において、見落とされがちなのは編集担当になる方のモチベーションです。先程言ったように、短期で成果が出にくい業務だったりするので、メディアのKPIと同様に、担当者への評価制度も明確にすべきだと思います。コンテンツの1つ1つが「24時間営業活動している社員」と考えられるわけですから、そこに価値を見出すことができますよね。

粂:これは、マネジメント側がしっかりと管理するべき内容ですね。無形資産として、ファンの醸成に投資をしている意識が必要です。

平尾:はい。ただし、マネージャーもしっかりと目的に沿ったコンテンツなのかを見極める目が必要になってきます。クオリティーコントロールがなされなければ、どれだけ記事を公開しても無意味になってしまいますからね。

粂:クオリティーについても、何を質とするかの話し合いは必要ですよね。そもそも、コンテンツ以前に記事のカテゴリやタグルールが定められておらずUI/UXが設計されてないケースさえあります。

平尾:タグが細かくなりすぎるのはよくある話なので、私は、カテゴリは7つ以下、タグは20個を目安として考えてます。

西田:コンテンツの質についてはどう考えますか? 社員が更新する場合、キレイな写真を撮ることが難しいケースもありますよね。

平尾:これは難しい問題ですよね。何をクオリティーとするかは色々な考え方があるかと思いますが「わかりやすさを心がけること」は質につながっていくのではないでしょうか。前提として、文章自体が読み込まれることは稀です。となると、サムネイルのデザインを考えることで記事の印象を良くしたり、あるいは、見出しと写真だけで記事の趣旨が伝わる工夫をすることで、回遊率やコンバージョン率があがることも期待できるのではないでしょうか?

粂:確かに、理解のしやすい構成を目指すことは大前提ですね。クライアントの社内体制を整理する段階で、サムネイル制作の基本方針などもクリエイティブディレクションする必要がありますね。
企業やブランドの理想が表現できていることと、伝えたいメッセージを読み手が理解しやすい形で発信できていることは、オウンドメディアの基本ですよね。ブランディングに重きを置くのであれば、撮影や取材にコストをかけていく方法もあります。

気を配るべき点はいろいろとありますが、目的は読み手をファンにすること。そのための体験をどうデザインしていくかが鍵となりそうです。

Extra ―「課題を解決する」ためにローカル意識は必要か?

今回のテーマは「オウンドメディア」であったが、プラスディー関西オフィスメンバーの興味は関西ローカルのデザイン会社事情について。引き続き、大阪に本社を置く「ARUTEGA」平尾 氏とのディスカッションの一部を番外編として掲載する。


粂:SNSの情報を見る限りではありますが、大阪では「STARRYWORKS」さんや「MEFILAS」さんの『CASE STUDY』や、「スピッカート」さんや「ZIZO」さんの交流会、他にも各社ワークショップなどを積極的に開いていて、特にリアルイベントが東京より盛り上がっている感じがします。

平尾:きっとここ最近の流れなんじゃないですかね。「スピッカート」代表の細尾さんが自分たちでやっているYouTubeにゲスト出演してくれて、「えっ、こういうの出てくれる人なんだ!?」って思いましたね。
ここ何年かで関西エリアで有名なデジタル系プロダクションも大きな会社のグループになっていき、独立系のプロダクションはとても少なくなりました。そんな状況の中で、勢いがあると感じさせるのは素敵ですよね。
ただ、やっぱり仕事の規模でいうと東京の方が圧倒的です。大きな仕事を複数社で分業して進めるプロジェクトは東京だとよくあると思いますが、大阪ではあまり聞かないですね。

奥村:フリーランスの方がプロジェクトに関わるということも少ないのでしょうか?

平尾:そうですね。私の知る限りではそこまでない気がします。ただ、デザイン系のフリーランス人口は少ないわけではないです。というのも、今言ったように、フリーランスの方自身でディレクションとデザインを行える規模の案件が多いためです。

デザインで課題を解決していくという目的に対して、プロジェクト規模の大小が必ずしも重要ではないと思います。ただ、高度デザイン人材は東京に流れるという傾向は昔から変わってません※。
もちろん、これは関西に限った話ではないと思いますが、デザイン系の求人サイトに掲載されている会社の数や給与体型を東京とそれ以外で比べていただければわかるかと思います。

粂:そうなんですよね。業界の方からは、「関東と関西での受注単価の違い」という話題もよく耳にします。

平尾:発注企業の規模や本社か支社かなど状況にはよるかと思いますが、東京に比べると受注単価が2割弱安くなっている現状がありますよね。
単純に地価ということもあるのかもしれませんが…。ただ、コロナ以降はプロジェクトがオンラインのみで進行することも増えたので、チャンスは増えたと感じます。

西田:プラスディーは宮崎県にも支社がありますが、オンラインのみで問題なくプロジェクトは進行してますね。

平尾:宮崎いいですね。関西以外でも例えば、広島県の「飛企画」さんや熊本県の「MONBRAN」さんなど、マーケティングやブランディングに強みをもっている良い会社は沢山あります。
弊社もオウンドメディア設計など、発信に対する的確なコンサルティングを強みにしています。
クオリティーでは東京の会社に負けていないと思っているので、今後は成果に対するコストの地域差が変化していくことを期待しています。

粂:確かにそうですね。関西、関東と一括りではなく、各地域ないしは、各会社の強みをどのように出して、いかにクライアントや地域の課題を解決していくかということですね。

平尾:大阪の「値切る」みたいなクリエイティブ以外の謎の商習慣みたいなものはあるかもしれませんが(笑)。

※ 編集注記

所謂「地方創生」とは人口減少と地方衰退の問題に一体的に取り組もうとするものである。「地方創生元年」とされる2015年から国は多くの予算をかけ、様々な施策を行っているものの、十分な成果が上がっているとは言いづらい。

一方で、2019年には経済産業省から「高度デザイン人材育成ガイドライン」というものが発表された。
要約すると、XaaSやDXが進むグローバル市場の中で広義の意味でのデザイナー人材の必要性を訴えるものだ。

この2つの問題を接合したのが、2020年に発表された「共創型ローカルデザイナー」という概念ではないだろうか。
また、最近ではデジタル庁が「デジタル田園都市国家構想」という取り組みを行っている。

デジタル技術を活用すること、デザイン人材を育てること、東京一極集中を避けることは社会課題解決に向けた重要な取り組みである。

プラスディーではこの問題に対して、2017年から取り組んでいる。

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